７月に青島でリフレッシュして、その月末には妹の結婚式に参加するために一時帰国してリフレッシュして、さあがんばるぞーと張り切ろうとする私を襲ったのは、学期の変わり目、というゆく人来る人のシーズンなのでした。

またもゆく人来る人
　女のＭ先生を始めとする留学生担当の日本人先生たちが入れ替わるのはもともとわかっていたことですし、５月には寒いと言っていたおじいさんのＭ先生が今度は暑さでふらふらだったので早々にお帰りいただいたのも計算どおりでした。

　侯先生（仮名・２０歳男）や殷先生（仮名・２０歳女）の同級生の李先生（仮名・２０歳女）という先生がいました。ヒステリーの李先生とは別人です。責任感が強そうなので留学生担当として採用したのですが、アホで使い物にならないと返品されてきてしまった人です。そこでクビにしたらよかったのですが、本人の強い希望で正教員から見習いに格下げして研修生担当として使っていました。授業は下手だし、日本語も下手だし、アドバイスしても日本語がわからないのかアホなのかまるで馬耳東風なのですが、とにかく一人でよく努力はしているので、こういう人材を使いまわしていくのも勉強のうち、とか思っていたのです。

　ある月曜日、李先生はブ～さんを訪ねました。用件は木曜日に辞めたいとのこと。前回クビにしないでやった恩も忘れて何だ、とブ～さんはその話を不受理扱いにしました。そして木曜日。李先生は私のところに来てやっぱり「今日辞めます」と言うのでした。責任感とまじめさだけがとりえだったんじゃないの、あなたは？つーか、私の見る目がないのでしょうか。じゃああなたが今教えているクラスはどうするの？と聞くと「秋山先生が教えてもいいです」。おいおい、ヘナチョコ王さん（その８参照）みたいなこと言うなよ。灰皿があれば投げつけたいくらい腹が立っているのに、その一方ではあきれて屁も出ないほど脱力した私は、ほんの形ばかりキレて怒鳴りつけておしまいにしたのでした。しかしまあ、何ヶ月も教えた学生を残してよく辞めるよなあ。

　その次は殷先生でした。こっちはとりあえず担当クラスが卒業するのを待ってからの退職でしたが、その代わり私に何の挨拶もなし。どうやら私の作ったシフトに強い不満をもっていたらしいんですね。自分ばかり二人ペアでの担任でなく、秋山が関心のないクラスばかり持たされている、みたいな。確かにそうだと認めるけど、それはあなたの力を買ってたからなんだし、だいたいそれを辞めるときになって初めて、しかもブ～さんに言うのはなぜ？あてつけか。

　そんなこんなと平行して、私の天敵であるケイ先生がうちの正校長である于さんとケンカして辞めてしまったのでした。ははは。乾いた笑いを漏らすしかありません。ちなみにケイ先生は于さんの親戚というコネでうちに来たんですけど。いい大人が何やってんだか。ま、願ったりかなったりの展開だからいいんですけどね。

　とにかくそれで私とブ～さんは新しい先生の募集・面接に追われるのでした。そして採用したのが誰と誰、とここで紹介してもどうせまた辞めちゃうだろうから面倒なので省略します。あ、でも、ケイ先生の後任は紹介しておきましょう。苗先生（仮名・推定４０～５０歳男←身元不明の死体かっちゅーの）というあやしいヒゲのおじさんです。ケイ先生よりはずっと頭が仕事用に回転する人で、私が一生懸命やってるクラス編成や担任先生のシフトの大変さが理解できるらしく、こないだの宴会のときにわざわざほめてくれました。単なるお世辞かもしれませんが、私はお世辞は真に受けることにしているので、いやはは、苗先生いい人だ、こちらこそよろしく、みたいな気分なのでした。

　その宴会というのは、私の日本での職場の大阪事務所から派遣されてきていたＴさん（暗算４段２７歳大阪人女性）の送別会でした。本当はＴさんは担当クラスの研修生を引率して日本へ行く予定だったのですが、中国的「そんなこと言ったって、事ここに至っては他に方法がないじゃないか」式論理で強引に決められてしまったのでした。もちろん、ある程度予測していたことではあったんですが。

　Ｔさんはこれができない、それはいやだ、あれはくだらない、と文句ばかり言う割にはなかなかいい授業をしていました。授業そのものはＴさんの強い拒否にあって見ることができなかったんですが、学生を見ればわかるんです。

　学生たちがよく覚えている単語と言えば、恋人、寝ます、シャワーを浴びます、の３つ。どんな文型を新しく教えても、自由に文を作らせると必ず恋人とデートしてシャワー浴びて寝ることになってしまうのです。これはもちろんＴさんの功績によるところ大です。もしＴさんが「そんなことを言ってはいけません」などと言っていたら、学生のやる気は殺がれてしまっていたでしょう。そしてクラスからは活発な発言が聞かれなくなっていたでしょう。実際にはそうならずに、学校でも一、二を争うほど元気なクラスになったのは、Ｔさんが学生の日々のエロネタにもひるまず（と言うより、むしろ積極的に先導して）学生の話したい欲求をうまく満たしてあげたからこそなのです。

　素人でありながら、日本語教育のかなり深い部分を無意識のうちに理解しているところがすごいです。まあ、ただ単にエロエロトークが好きなだけなのかもしれない、という可能性も残るのですが、それについてＴさん本人に確認することはとうとう最後まで（怖くて）できませんでした。残念なことです。