私の盟友Ｂ校長が寿退職してしまい、教育畑出身のＧ校長が全権を掌握したのですが、このおばちゃんがまた他人の意見に耳だけ貸して絶対に取り入れはしない人で、私としては本当にやりにくくなったのでした。

引かぬ！媚びぬ！
　私としては、日本から派遣されて、日本に対して研修生教育の責任を負っているわけですから、少なくとも教育に関する部分、たとえばカリキュラムとか教員の人事とかは私の裁量だと認識しているわけです。
　しかし、Ｇ校長というこのおばちゃんは、勝手に授業中の研修生を呼び出したり（教室に入るのが遅かったとかいう理由で！）、雪かきに駆り出したり、勝手に授業のやり方まで口を挟んだり、大げさな言い方をすれば私の仕事の邪魔をしまくるんですね。Ｂ校長がいたときは私はＢ校長に不満をぶつけ、Ｇ校長とは直接口は聞かないようにしていたんですが、Ｂ校長がいなくなるにあたって、ボスが食事会まで開いて「今後力を合わせるように」と言ったので、しかたなくちょくちょく校長室に顔を出すようにしています。

　するとＧ校長は「こうやって私たちが交流を深めることはいいことだ」とか何とか言って、結局は私が自分の軍門に下ったと勝手に思い込んで満足してるだけなんです。言っとくけどアンタと俺の間に上下関係はないからな、俺の上司はボスだけだ、とかたくなに思っている私。

　先月の職員室の机の件でもわかるように、人に好きなようにやらせておいて、後から難癖つけるのを自分の役目みたいに思っていやがって、私が無視しているとボスに相談するという体裁をとってチクるという性格のよさなのですが、こないだは教員人事にまで口を出してきたのでキレました。

　新しく入ってくる研修生のクラスの担任や使用教室は私が決めることになっていて、と言うか、他の誰もやりたくてもできないのですが、来月のクラスの担任と教室を決めて職員室に掲示し、また学校秘書に伝えて総務方面の準備よろしくと指示をしたら、その何時間か後にＧ校長から呼び出し。

　何事かと思えば、Ｘ先生（元研修生）はよくない、担任を外せ、と言うのです。これには私もカチンときました。私が判断して決めたことだ、私がすべての責任を負う、それにもう発表したことを変えるわけにはいかない、と強い調子で言いましたが、相手は中国のおばちゃんです。しかも強気で何もかも自分の思い通りじゃないと気が済まない性格。あなたは知らないだろうが、Ｘは学生管理がまるでできない、彼のクラスの学生は態度が悪い、それを注意してもＸは知らん顔でいる、こんな人間に30人ものクラスを任せられるか？日本で問題が起きたら我が校の面子丸つぶれだ、そうなってからでは遅い、だいたいＸは研修生上がりに過ぎなくて、我が校には大卒の求職者がわんさか問い合わせてきているんだ、それと取り替えればいいじゃないかとか何とか、もう脅迫まがい。

　なるほど、確かにＸ先生のクラスの研修生は出来が悪いですわ、でもね、何で私が担任発表して各方面に準備手配してからいちゃもんつけてくるの？それを受け入れて担任変更したら、先生たち誰も俺のこと信頼してくれなくなっちゃうでしょうが。俺の面子はどうなるんだよ。校長だからってゴーマンにもほどがあるぜ。

　て言うか、俺の仕事ですから。おばちゃん、あんたにゃ関係ないから。もし研修生がろくでもないと日本で言われることになったって、誰もアンタの責任なんか問いゃしねえんだよ。全部俺なんだよ。口出しすんな、ボケ。

　しかも、元研修生より大卒のほうがいい先生だなんて考えているところからして、脱力してアゴが外れて肩が抜けそうです。何もわかってない。仕事のこと何一つわかってない。もうそろそろ１年経つというのにまだ何一つわかってない。アホか。俺たちが必要としている先生は普通の学校の普通の教科の先生と違いますから。教える相手はこれから日本の生産現場で働く研修生ですから。新卒の社会経験ゼロの坊ちゃん・嬢ちゃんなんかより、日本語が多少下手でも日本で研修したことのある人間のほうが100倍適任ですから。俺たちが教えなきゃいけないのは、日本語じゃなくて日本そのものですから。学歴なんかウンコ召し上がれってんだ。

　だからＧ校長の言うこと全部無視。うん、うん、でも決めたから。ふうん、そう、でも変えないから。へえ、はあ、だから俺の責任ですることだから。

　じゃあまあとにかく任せるけどよく注意しなくちゃだめよ、なんて、何でアンタが俺に指図するの。どっちかっつーと、俺がアンタを指導したいわ。

　しかも、もっと腹が立つのは、Ｇ校長、このあと私に内緒でＸ先生を呼び出して注意を与えたんだそうです。しかもその内容を聞いて目の前が一瞬真っ暗になるほどの怒りがこみ上げました。

　お前は本来クビだ。学生管理がなってない。しかも改善する姿勢も見せない。次のクラスでまた管理が悪かったらクビだ。お前は元研修生だろう。我が校には大卒の求職者がいくらでも来る。つまり、お前の代わりはお前より優れたのがいくらでもいるんだ。わかったか。

　よくも俺のかわいい部下にそんな暴言吐いていただきまして、このクソババア。勝手に大卒の先生がいいとか思い込んでんじゃねえよっ。いいから俺の仕事の範囲に土足で踏み込んでくるなよ、何にもわかってないくせに。

　うぎゃー。

　さて、そんなことのあった翌日です。Ｇ校長から電話がありました。

　5/1から5/7までメーデーの連休で学校を休みにするわけだけれども、4/30の午後の授業はもうシフト組んだか？（連休明けの分まで組んでありますが。）そうか。実は午後の授業が終わってからだと帰宅できない学生がでてきてしまい、学校に１泊することになってしまうので、午前で終わりにしようと思うんだが…。

　この件についてはですね、私、１ヶ月も前に秘書を通して確認済みなんですよ。いつも直前にどたばたするのに嫌気が差したので、５月の連休はいつからいつまでって聞いたんです。そしたら5/1-5/7だというそっけない返事があって、いつも連休前は急に半日休みにされたりして怒り狂ってた私としては、ははは中国人はこちらから聞かないと気を利かせて教えてくれたりはしないんだからもうははは、みたいな気持ちで、4/30の午後はどうするんですか、家が遠くて帰れない人のために（という日本人的にはすっかりわけのわからない理由で）休みにしたりするんじゃないですか？と再度尋ねたんです。そしたら「平常授業です」という返事でがっかりした、みたいな経緯があったんです。１ヶ月も前にね。

　なのに、あと４日になってからこんなことを言ってくる。馬鹿じゃないの。つーか、馬鹿でしょう？馬鹿なんでしょう？もう１年近くも「授業計画に影響があることは最低１週間前に知らせてくれ」と言い続けているんですよ、私。しかも何かしら直前や事後に知らされてはそのたびに職員室で他の先生たちが引くほどキレてるんです。「秋山には前もって知らせないと」みたいな共通認識が生まれているはずなんです。なのに、Ｇ校長はまだこんな。しかも、「平常授業だと返事した覚えはない」とか言うんですからもう…。

　前日の件と合わせて完全に頭に来てしまった私は、「こういうふうに間際になって変更されるのがいやだから、１ヶ月も前に確認したんじゃないか、そっちに覚えがなくてもこっちは覚えている。今さらの変更は受け入れがたい」と突っぱねました。

　悪いけどね、この学校の、少なくとも研修生コースに関しては俺はアンタの部下じゃないからね。気に入らなきゃ追い出し工作でも何でもすりゃいいや。