いろいろと疲れさせられることが重なって心が弱りかけていたところへ、私の中国でのボスが、学校の外人教師をまとめて青島へ招いてくれて、でも、もしかして変な観光とか宴会とかがんじがらめにパッケージ済みだったりしたら振り回されるだけでしんどいな、とびびっていたのですが…。

青島やああ青島や青島や
　４月にも一度、同僚Ａさん（東京事務所の同僚。帰国済み）とともに強制連行的に連れて行かれたことがあるんですが、そのときはひたすらホテルで待機させられまして、結局３日か４日いたんですが、自由時間は全部で半日ぐらい、マクドナルドでビッグマックセットを食べて、運動靴を一足買うのがやっとでした。食事だって、ごちそうしてもらえるのは喜ぶべきなんですが、せっかくの都会でなぜまた中華なの？と泣けてくるのでした。

　その反省を踏まえて、今回は早くからブ～さんに「ぜひ自由時間をください」と頼んでいました。結果、それとは関係なく、（独断的思いつきで強引に仕切る）ボスが不在だった、というシンプルな理由で、よけいなもてなしを受けずに済んだのでした。いえーい。

　先を急ぎすぎたのでまた少し話を戻しますが、金曜日の夕方に出発したのは外人先生たちとブ～さん（校長。２７歳女性）と運転手の張さん（２５歳男性）の計８人。もちろんＴさん（剣道６級の２７歳大阪人女性）やおじいさんのＭ先生（７３歳男性）も一緒です。当初は秘書の崔さん（２５歳女性）も一緒に行くという話だったのですが、当日になって乗車定員が８人だということに気づいたブ～さんがいきなり辞退させたようでした。元はと言えば自分の不注意が引き起こしたことなのに、ブ～さんは「Ｍ先生、辞退してくれないんだもん。普通遠慮するでしょう？『若い人たちだけでどうぞ』って」などと言ってて反省の色なし。さすが中国人。

　そんな風に思われてるとはつゆほども知らないＭ先生は、さりげなく、でも確実に窓際の席をゲット。こういう抜け目のなさがかわいくないのですが、彼がゲットした窓は西日が差し込む側だったのでした。そして４時間弱のロングドライブ。疲れのたまっている週末なのに揺れがひどくて眠るに眠れません。青島に着いたのは夜の９時過ぎだったでしょうか。

　ここでまたブ～さんの中国人的性質が炸裂します。いつもは６時に食ってんだから一刻も早く飯食いたいし、とにかく疲れたからとっとと部屋で休みたい、という私たちの痛切な願いをよそに、個人的な友達を呼び出したのです。そしてその前に夕食をどこで食べるか９分９厘決めていたのですが、その友達の「もっと環境のいいところがある」の一言でまったく別の店に変わってしまったのです。マックでいいよ、でなきゃ上島珈琲（UBC）。そう思っても、ブ～さんがおごってくれる以上は決定権はブ～さんにあるわけで、おとなしくその四川料理の店に入るしかないわけです。

　そしたら料理がまたタニシや川魚やザリガニなど、私にとってはゲテモノでしかないものばかりで、大都会青島に和食や洋食を求めていた私のハートはふとん圧縮袋のようにぺちゃんこにしぼむのでした。最後に担担面を頼んだら、のびきったそうめんに辛味噌かけただけ、みたいなシロモノで、もしかして今夜腹へって眠れないかも、と思ってしまうほどでした。

　あ、一つおいしいものがありました。名前は忘れましたが、小麦粉をバターでどうにかしたもの。料理としては刺身のつまみたいなものなんですが、その味はまるでクロワッサンのようで、私たち外人先生はブ～さんに対して失礼だと知りつつも、メインの魚もブ～さんの友達もそっちのけで異様な盛り上がりを見せてしまったのでした（Ｍ先生は除く）。

　そして宿に到着。宿はうちのボスの別宅…と言うより、ただ買って持っているだけのマンションです。２軒あるので男性と女性とで分かれることになっており、私と運転手の張さんとＭ先生の３人で一緒に泊まることになりました。そしてここでＭ先生にとって衝撃的な発表が！

　と言うと大げさなんですが、明日は丸一日自由行動だということがブ～さんから正式に発表され、私たちはああよかったと安堵したのですが、Ｍ先生は観光も食事も全部面倒見てもらえるとばかり思っていたらしく、「はい、じゃあお休みなさい」と解散を宣言するブ～さんをつかまえてなにやら緊急ミーティング。どうやら現金をほとんど持って来ていなかった模様で、こっそりブ～さんからもらっていました。

　解散してメイドさんに部屋を案内してもらいます。ツイン（二人用）の部屋とダブル（一人用）の部屋があったのですが、Ｍ先生はダブルの部屋のところで「私がここでいいですか。老人ですから」と謎の理由をつけて一人部屋をゲット。若い私と張さんに遠慮してツインを譲ったふりを装うとか、一人じゃないと寝られないからみたいな説得力ある理由をつけるとか、なんか演出があるでしょう、普通？もちろん私も張さんもＭ先生と同じ部屋になんかなりたくないんですが、「老人ですから」って何？相部屋はいや、という態度が前面に出すぎ。

　そして部屋が決まると、Ｍ先生は今度は「電話を貸してください」と頼んで、青島にいる元教え子に電話をかけました。夜の１１時半を回っているのにいいのかなと思いましたが、すぐにわかりました。つまり、Ｍ先生は一人では自由に行動できないので明日助けてくれる誰かが必要なのでした。かわいそうに。ブ～さんが前もって青島に着いたら自由行動だって伝えてないから。伝えておけばくっついて来なかったかもしれないのにねえ。おじいさん、恩師としての立場を壊さないぎりぎりのラインで懇願しています。そして何とかホリデイ・インで待ち合わせの約束ができたようで私も一安心。

　しかし、事件は翌朝早速起きたのです。その名も「パン１０個事件」。

　翌日は丸一日自由行動なのですが、前夜の解散前のミーティング（？）で、朝食だけはパン・牛乳・卵ぐらいをメイドさんが用意してくれることになっていました。なのに、９時過ぎに私が起きたときパンは一つもなかったのです。メイドさんが「全部持っていった」と言うので、ああ、女性陣の方に持って行っちゃったのか、しょうがねえな、と思っていたのですが、Ｔさんによると「Ｍ先生が１０個くらい持ち去ってしまったため、女性陣も食べるパンがなかった」とのこと。

　つまり、Ｍ先生は朝パンを食べたあと、昼と夜もまたパンを食べるつもりで持ち去ったらしいのです。お金がないのにいきなり自由行動なんて言われて外食なんかできるか、という抗議をこめたいやがらせなのか、単にケチであるせいで無料で配給されるパンに我を忘れて持てるだけ持って行ってしまったのか、いずれにしても困った人です。子供かよ。どうせ教え子に観光案内から食事のお供から全部してもらって、お金だって全部払ってもらうことになるのに。まさかそのお礼としてパンを渡すの？みたいな。

　私はその日、急遽メイドさんが買ってきてくれたパンを食べてから、Ｔさんと一緒に出かけました。ホリデイ・インで「青島ナビ」という日本語の冊子をただもらいして、ジャスコを冷やかし、銀行で両替して、カフェバー風の店でピザ＆パスタという積年の夢をかなえる食事、それからカルフールを冷やかし、青島十景の一つである桟橋を観光して、マックでソフトクリームとチキンナゲットという積年の夢をかなえるおやつ、そして夕食は日本人女将のいる日本料理店で熱燗飲みながらの食事、そしてまた昼の店でちょっと飲んで、そして帰ったのでした。帰りのタクシーの運転手が私とＴさんを日本人とその中国人情婦、か何かに間違えていた、というのはささいなことです。

　あちこち歩き回っている間、他の外人先生たちにのべ３回も出会ったというのがおかしな話ですが、みんな都会に出て行きたくなる所は同じということなんでしょうね（Ｍ先生は除く）。

　その翌日は私は一人で昼の集合時間まで惰眠をむさぼりました。昼は青島事務所の主任が日本料理をごちそうしてくれるとのこと。着いてみると、いい店らしいのですが、造りや内装がドライブイン風でした。そして注文してみると、さば塩焼き定食とさわら味噌漬定食の数がごっちゃになったりの大混乱。

　拍車をかけたのがまたもＭ先生。年長だから真っ先にメニューを渡しているのにろくに見ようともせず、ブ～さんに「何にしますか」と尋ねられての答えが「一番高いものにします」。一瞬、場が凍りつきました。本気だとしたら頭がおかしいので、何かの冗談か嫌味のはずなのですが、全然わかりません。これは本人もしまったと思ったらしく、すぐ「刺身定食をいただきます」と言ったのですが、店の人がすかさず「すみません、ありません」と言ったので、意地の悪い私はちょっと笑いそうになりました。

　そして結局はさば塩焼き定食になったのですが、こちらから催促するまで作るのを忘れていたらしく、ずいぶん遅く持ってきて、しかも火があまり通っていないようでした。Ｍ先生自身もそれを気にするような発言をしたので、ブ～さんが「もう一度焼いてもらいますか」と聞いたのに、「いや、けっこうです。どうせ大して食べませんから」。どうですか、みなさん。かっわいくねー、と叫ばずにはいられないではないですか。

　そしていよいよ威海へ帰るというとき、またもＭ先生は窓際の席をゲットしました。しかも今度は行きのときとは反対側の窓。でも、帰りは行きの道を反対に戻るわけで、Ｍ先生はまたもや西日にさいなまれながらのロングドライブを味わう羽目になったのでした。かわいそうに。次の機会があったら今度は本当に辞退するかもしれません。

　ふう。しかし、青島はいいところでした。あそこなら永住してもいいかも。