高校に入った私は焦っていた。周りの級友がどいつもこいつも只者ではなかったからだ。小学校・中学校と「天才」と呼ばれ続けた私が全然目立たない存在に成り下がってしまった。ギターもピアノも弾ける奴がいる、一人旅が好きだという奴がいる、一緒に遊んでいるのに成績が下がらない奴がいる、アメリカへ留学する奴がいる、…。

　対抗上、私はJohn Lennonファンであることに磨きをかけていった。代々軍人で父も自衛官であるという家系であるにもかかわらず、Johnの反戦思想に心酔して、その割には「革命」という言葉が一番好きだったりして、勢いでエンゲルスやレーニンや毛沢東を読んでしまった。

　でも「運動」はキライだった。でも選挙では共産党に入れていた。一度彼らにやらせてみようよ、そんな気持ちで応援していた。間違いなくこの頃の私は左寄りだった。

　とは言えもともと自衛隊や日米安保については左側とは意見を異にしていた私であったが、協力隊で中国に行って考えがはっきりと右に傾いた。

　南京大虐殺とか持ち出されたとして、そこでいちいち謝っていたら中国ではやっていけないのである。だいたいそんな話を持ち出してくるのは意地の悪い奴なのである。これを言えば日本人は恐れ入るだろうと思うから話題にするのである。そんな奴に負けてたまるか。じゃあチベットや新疆はどうなんだ、清だって元だって異民族が侵入して作った王朝じゃないか。満州だってもとから満族のテリトリーだったじゃないか。死者の数を言うなら毛沢東の失政の犠牲のほうが多いじゃないか。

　もちろんそうやってただ言い返すだけでは非生産的である。子供の喧嘩になってしまう。しかし、（反省するのはともかく）謝ってばかりでは非生産的どころか、確実に付け込まれるのである。だって私の会った中国人の多くは友好的だったし、中には「日本の国歌を歌って」とせがむ学生もいたくらいなのだから。自衛隊に対する差別があるとか、国旗・国歌を拒否する人がいるとか、北朝鮮のスパイ船を沈めたときに批判が出たとか、そういう話をすると驚き呆れるほどである。

　中国の本音はおそらく過去なんかどうでもいいのだろう（当事者は別として）。政府の人間が対日外交の切り札として過去を持ち出してくるに過ぎない。つまりは建前である。日本人は普通、建前＝きれい事、本音＝ドロドロ、みたいなのに慣れているからわかりづらいのかもしれない。彼らはドロドロの方を建前にしているのである。特に左寄りの「運動」をするような人たちは先生に選ばれた学級委員みたいに、建前＝本音＝きれい事で固めようとする人たちだから、よけい中国の本音がわからないだろう。

　最近日本では右寄りの思想がはやっている。ネットの掲示板などを見ても、左寄りの意見には説得力がなく、右寄りの意見を持つ者に論破されている。そのこと自体はいい。そうして人間の知恵は深まっていくのだから。

　しかし、ちょっとこれは、と思うのは、右寄りの側に好戦的な（戦争じゃなくて論争ね）論客が多いことである。もしかしてただ喧嘩が好きなだけで、喧嘩に勝ちたいから最近力を取り戻しつつある右寄りの立場をとってるんじゃないかとさえ思えてくる。たとえどんなに筋の通った話であっても、日の丸・君が代反対の高校生のホームページとかに乗り込んで議論をふっかけるのはちょっと大人げない。

　ネットで暴れるとみんなの目に付くのでたいそう見苦しい。暴れるなら極左がやるように地下でやらないと。でなければ、それと気づかれないように徐々に洗脳するとか。

　というわけで、私のこのＨＰは実は読者をじわじわと右翼にするための巧妙な洗脳プログラムだったのである（寒）。