～とでも言うのでしょうか

　形式上は疑問文になっているが、これはいわゆる反語というやつで、実際には「～と言ってるじゃないか、～という意味だろ、そうに決まってる、そしてそれがむかつくんじゃ、ボケ」という意味である。

　デパートの食堂で、料理を食べ終わってからコーヒーを追加しておしゃべりしていると、ウエイトレスがやたら頻繁に水のおかわりを持ってくるのですが、あれは何ですか。早く帰れとでも言うのでしょうか。

　禁煙ではない喫茶店で席について一服したら、隣のテーブルの女がわざとらしく咳き込んだりするのですが、あれは何ですか。タバコを吸うなとでも言うのでしょうか。

　こういうのはまあ本当に「早く帰れ」とか「タバコ吸うな」と言っているのだろう。そしてそれにむかつくのも個人の自由である。

　しかし、問題なのは、勝手に曲解して相手が言ってもいないことに反論することによって、議論を自分に都合よく進めようとする者がいるということである。最近のニュースから例を引くとこれだ。沖縄戦の民間人集団自決が軍の強制であると主張するグループに属する高校生の発言。

「わたしたちのオジイ・オバアが嘘をついているとでも言うのでしょうか」

　誰もそんなことは言ってない。

　軍による強制があったと認めるに足る十分な証拠がない、と言っているだけである。早い話が「ＵＦＯを見た」という証言者がいくらいたって、それで即ＵＦＯが存在すると結論が出せないのと同じ話である。もちろん嘘をついている可能性もあるし、嘘じゃなくて本気で証言しているけど認識や記憶が間違っている可能性もある。とにかくいろんな可能性があって、真実であるとして教科書には書けない、そう言っているわけである。

　なのに、オジイ・オバアを嘘つき扱いするとは何と極悪な、被害者の訴えに耳を貸さないのか、という感情論に持ち込むわけである。これは明らかに冷静な事実分析を避けて、とにかくかわいそうという世論を作り出して、勢いで自分の主張を通そうというやり方である。

　「嘘をついているとでも言うのでしょうか」と訴えれば、ＵＦＯの存在が確かなものとして理科の教科書に載るとでも言うのでしょうか。美輪明宏が天草四郎の生まれ変わりだということが歴史の教科書に載るとでも言うのでしょうか。

　つまり、この「～とでも言うのでしょうか」を使いまくる人というのは、何が何でもゴリ押しして自分の主張を通そうとする強権的なファシスト予備軍である。軍の強制を認めない人間は消えうせろとでも言うのでしょうか。本人はたぶんその正反対の思想に基づいているつもりでいるのだろうけれども、そこには論理性のかけらもなく、ただ勢いだけなのである。試しにこう言い返してみれば、彼らは感情むき出しにして怒り狂うだろう。

「あなたたちのオジイ・オバアが嘘をついていないとでも言うのでしょうか」