て言うか

　最近流行の（これを言うようになったらオヤジだなあ）表現である。今、○○って言ったのはそれはそれでいいと思うけど、次のような言い方もできるんじゃないかなあ、というのが文字通りの意味である。そして、もとは自分で自分の言葉に付け足して言うときに使われていたものと思われる。
「日曜日お見合いだったんでしょ？　どんな人だった？」
「いい人だったわよ。しっかりしてる…て言うか、頼りがいのある感じの人」
　これがやがて相手の言った言葉への付け足し、さらには言い換えへと進化していくわけである。
「でもさあ、タケシ君はどうしたの？　もしかしてあれだったの？キープ？」
「て言うか、タケシは友達ね。映画とか食事しか行ってないもん」
　このあたりまでは「て言うか」も控えめである。そういう言い方もありだと思うけど、と、一応認める気持ちがまだ残されている。しかし、言葉というものは結局この方向にしか進化しないのだろうかとちょっと悲しくなってしまうのだが、最近の「て言うか」はこの譲歩の気持ちがすっかり薄れて、でもこう言った方がいいんじゃないかなあ、こう言うべきでしょう、いや、私はこう言いたいのだ、やかましい、私に言わせろ、という意味がメインになっている。
「ええー!?　それってデートじゃないの？二人だけででしょう？」
「て言うか、タケシが勝手に勘違いしてんのよ」
「そんな言い方したらタケシ君かわいそう」
「て言うか、田舎者なんだもん」
「そんなの最初からわかってたじゃない」
「て言うか、もう決めちゃったのよ、お見合いした彼と結婚するって」
　ただ自分の言いたいことを言ってるだけで、どこからどう見ても相手の言うことに耳なんか貸しちゃいないのである。同様に相手を黙らせて発言権を奪取するという機能を持つ語として「いや」「いえ」などがあるが、これらが否定の「いいえ」から派生したものであることを考えれば、「て言うか」の方がまだ少しましかなと私は思う。
　しかし、最後に取って付けたように占いっぽいことを言うと、「て言うか」「て言うか」ばかりでなく、もう少し人の話を聞いた方が運が開けるはずである。