そうなんですかねえ

　何とも微妙な表現である。「そうなんですか」の部分で相手の発言内容に対していくばくかの疑問や不同意の気持ちを表し、それに続く「ねえ」の部分で「でもまあお説は承りましょう」と譲歩する気持ちを表す表現である。
「あの人とはどうもそりが合わなくってねえ。嫌われてるんですよ、私」
「うーん、そうなんですかねえ」
嫌われてるんですって、そんなことはないと思いますけどねえ、でもまああなたがそう感じるという事実は承りましょう、と譲歩しているわけである。
普通に考えればそんな譲歩はする必要がなくて、「そんなことはありません」と断然否定するのが人の優しさというものである。なのになぜそこで歯切れが悪くなるのか。実は「あの人だけがあなたを嫌っているんじゃない」と思っているからである。
「だいたいあの人、私に対してだけすごい嫌味な物の言い方するでしょう？」
「いやあ、そうなんですかねえ」
そんなことはないと思いますけど…でもまああなたがそう感じるんだったらそうなのかも知れませんねえ、と譲歩しているわけである。
「ちょっといい大学出ていると思って鼻にかけてるんですよ」
「はあ…、そうなんですかねえ」
それは絶対にないんですけど…でもまああなたにそこまで強く断言されるとちょっと言い返せませんねえ、と譲歩しているわけである。て言うか気迫負けである。
「あなたはその点いい人だから私も助かるんだけど」
「いやはは、そうなんですかねえ」
こんな時に引き合いに出してほめられてもうれしくないんですけど、と困っているわけである。

　情けないことこの上ない。この調子でどこどこまでも譲歩を重ねて、同意しかねる話に延々と付き合い続けるつもりなのだろうか。もういい年なんだから、もう少し自分の意見を出さなければなるまい。いや、私が、ではなくて、「そうなんですかねえ」を常用句としているような人は、という意味である。そうに決まっているではないか。人に気を遣って遠慮するのもほどほどにして、自分の言いたいことを出していかないとダメである。うーん、そうなのかなあ。