わかっちゃいるけど大ショック

　私は現在（2002年5月）中国山東省はＷＨ市の日本語学校で教鞭をとっている（くわーっ、エラそー）。とか言って、最近は新人先生の指導と称して授業参観ばかりしていたのであるが、新人先生たちが卒業試験のために（そう、新卒なのですよ。しかもまだ卒業前）そろって休んでしまったので、３日間ほどではあるが、一つのクラスを朝から晩まで教えたのであった。

　そのクラスは他のクラスとは違って１５人程度というやりやすい人数だったので、学生の名前も覚えられるし、気持ちよく授業ができた。

　しかも、実はそのクラスには私の顔見知りがいるのであった。最初はどこで会ったことがあるのか思い出せなかったのだが、すでに多少日本語ができる彼女を見て思い出した。私は去年のゴールデンウイークにも威海で日本語を教えていたのだが、そのとき泊まっていたホテルのレストランのウェイトレスなのであった。

　洋風の朝食がとれることに浮かれた私は目玉焼きを両面焼きの黄身かためで作ってもらい、それを食べるときに、ウェイトレスをつかまえて「ケチャップもらえませんか」と言って持ってきてもらったのだが、そのウェイトレスは日本語を勉強しているらしく、あなたは日本人かとかケチャップを日本語で何と言うかとか尋ねてきたのであった。おい、客に私的な用事で話しかけてくるなよ、とちょっと思った私であったが、翌日私が何も言わないうちにケチャップを持ってきてくれたのであっさり許した、なんていう過去があったのである。

　で、実はそれだけじゃなくて、それから半年近くたって私が再び威海にやってきて、何かの宴会のお供でそのホテルへ行ったとき、並み居るお客様たちを差し置いて私の席にだけケチャップの小皿が置かれたのであった。ふと見ればあのときのウェイトレス。よくまあ私の顔とケチャップ好きを覚えていてくれたものだと感激してしまった。でも、結局私はそのケチャップを使わなかった。

　だってその日の料理は中華だったから。しかも海鮮。

　そのウェイトレスがホテルを退職して日本へ研修（という名の出稼ぎ）に行くべく、私の学校へ来たのであった。そんな彼女であるから、日本語がまったく初めて、というクラスの他の学生とは違って文法知識も語彙も豊富なのである。

　授業の間の休み時間、事務所でコーヒーをすする私の耳に「寒い、やさしい、…」などと言っている声が届いた。クラスでは形容詞なんかまだ勉強していないので、彼女が言っているのだとすぐにわかった。ほう、一人でよく勉強したもんだと感心しつつ、さらに耳を傾けていると。

「日本語の勉強は寒いです」

　がーん(ﾟoﾟ)。あ、そう、寒いんだ。俺の授業って寒いんだ…(T_T)。間の悪いことに日本人同僚Ｔさん（女性・剣道６級）にも聞かれてしまい、Ｔさんは当然化粧が崩れるほどウケまくるわけである。先輩面して偉そうに指導なんかしていた私の立場はぶっとんでしまった。

　…なんちゃって、もちろんこれはその元ウェイトレスの彼女が「難しい」と「寒い」を間違えて覚えているだけなのである。それはもう、誰が何と言っても断然そうなのである。頼む、そうであってくれ。