物理的に・生理的に

　本来の意味はそれぞれ「物理の法則に照らして」「生理学的観点から言って」ということなのだが、実はどちらも「絶対やだ」という意味で使われていて、違いと言えば、「物理的に」は男が使い、「生理的に」は女が使う、というだけのことである。

　「一週間で100件訪問するなんて、物理的に不可能だよな」
　「課長の声が生理的に受け付けないのよね」
　「ＧＷは海外行ってて５日の夜に成田に帰ってくるんで、６日朝から大阪で会議っていうのは物理的に無理ですね」
　「何とかいいところを見つけてうまくつきあわなきゃって思うんだけど、生理的に好きになれないわ、課長」

　物理的あるいは生理的な根拠はなく、「絶対やだ」という気分のことを言っているのだから、つまりは「心理的」な話である。なのに客観的根拠に基づいているかのように装いたいという要望に応えて生まれたのがこのフレーズである。

　このフレーズの常用者は、実は物理学や生理学にはむしろ疎い。でも、そんな、20年前にじいちゃんの葬式で顔を見かけただけの遠い親戚みたいなものを引っ張ってきてまでして拒絶したいものがあるのである。その、物理的でも生理的でもなく、ひたすら心理的な拒絶の強さにこそ注意を払うべきである。

　というわけで、このフレーズの常用者は文系である。性格は「若」または「姫」ばりにわがままである。そうわかってて付き合えば、そう難しい相手ではない。