Hey Bulldog

　ビートルズのオリジナル・アルバムの中で一番つまらないのはやはり "Yellow Submarine" ではないだろうか。なぜなら同名タイトルのアニメーション映画（これはこれで結構楽しい。最後に生ビートルズが出るし）のサントラだから。そしてB面はすべてジョージ・マーティン作曲のインストルメンタルだから。しかもＡ面には映画で使われていないけど、この時期レコーディングした曲で、お蔵入りにするにはもったいないからってんで適当に放り込んだ曲があったりするいいかげんなアルバムだから。

　そしてその適当に放り込まれた曲が "Hey Bulldog" である。で、他の人はどう思っているか知らないけれども、私は「うん、これはお蔵入りにしちゃもったいないわ」と思ったわけで、つまりは好きな曲なのである。

　イントロのピアノのフレーズがとにかく印象的である。そこに攻撃的な音のリードギターが重なり、歌いだしのハーモニーがいきなり不協和音。さーすがジョン。かっちょえーなー、と半開きの口からよだれがたれそうである。ピアノが４ビートでリズムを刻み、ポールのベースは高音中心に自由に駆け巡る。歌詞は例によって意味不明。でもそれは全然かまわないのだ、ということは前回 "I Am The Walrus" のときにも言ったとおりである。

　そして一転してサビ。すべての楽器が８ビートに変わる。ベースも低音部で粘っこいリズムを作り出す。そこに変拍子かと一瞬思わせて（あれ？もしかして私だけ？）実はそうじゃない変なメロディー。ジョンのちょっとハスキーめの声がたまらなくよくって、この曲を聴いてるとどうしてもここだけはいっしょに歌ってしまう私である。"If you're lonely, you can talk to me" ってやけに唐突に収束するメロディーにあっけに取られる間もなく、イントロのフレーズが繰り返されて２番へ。

　聴いているうちにその粘っこくて、でも唐突に終わるサビが待ち遠しくなっている自分に気がつく。この唐突に終わる感じは "Baby, You're A Rich Man" のサビの手前のメロディーによく似ていて、終わる気配がなかったのに最後のほうの音符２つくらいで一気に収束させている感じがする。それで何だか物足りないようなもっと聴きたいような気持ちになるのだろうか。

　それにしても何で "Hey Bulldog" なのかわからない。と思って聴いていると最後のリフレインでわおーんわんわん、と吠えたりしていて、だからブルドッグかなあとも思うのではあるが、よく考えてみるとなぜそこでわんわん吠えるのかがわからないわけで、やっぱりどうして "Hey Bulldog" なのかは謎に包まれたままなのである。

　しかしあのサビはいい。あの声であの粘っこさで歌えたらどんなに幸せだろう。バラードを声量豊かに歌えることだけが「歌が上手」ってことではないんだぞ、ということをつくづくと感じてしまう。