相変わらずです

　学生時代の友人、というものがいる。卒業してそれぞれ就職などすると、仕事が忙しかったり、めげて落ち込んでいたり、新しい恋を見つけてそれに打ち込んでたり、いろいろと都合がつかなくてなかなか会えなくなる。今ならメールがあるのかも知れないが、とにかく、そうやって徐々に疎遠になっていくと、最後には年賀状をやりとりするだけの付き合いになってしまったりする。

　そんな年賀状に書いてあるのがこのことばである。「相変わらず」のあとに「気ままな毎日を過ごしています」とか「地味に仕事を続けています」とか続くこともある。使用者は主に２０代後半の女性である。

　ズバリ言って「まだ独身です。結婚しそうな気配すらありません」という意味である。

　いやいや、それは決めつけすぎだよ、言葉通り「前と同じように」という意味でしかないよ、と思う人はちょっとおめでたいと思う。例えば、何年かぶりにそういう女性と会ったときに「相変わらずだね」なんて言ってみたらいい。彼女はたちまち怒り狂うに違いない。自分で言うのだって胸中は複雑なのに、他人のおまえにあえて言われる筋合いはないわい！というところである。まして既婚の同性が「本当に相変わらずね。きっと一生そのまんまって気がするわ」なんて言った日には間違いなく血の雨が降るわけである。

　このように難しい「相変わらずです」をよく使う人というのは、真面目できちんとした古風な女性である。結婚しなくちゃ、という思いが心の底に重く、そして確実に存在しているのである。毎年「相変わらずです」という年賀状を書くのはさぞ不愉快なことだろうと思われるのだが、それでも彼女たちはきちんと書いて出すのである。立派な心がけである。

　そうしてそんな苦難の道のりを歩いた果てに無事に結婚すると、今度は「相変わらずだね」と言われるのを何より喜ぶようになるわけである。女心の不思議さである。ちょっと付き合いきれないような気がしないでもない。

　そんなこと言ってるから私もいつまでたっても相変わらずなのであるけれど。